千葉県の柏市で新しい試みが始まり視察にいってきました。市民の悩みをAI(人工知能)が聞いてくれる仕組みです。名前は「悩み相談AIチャット」。スマートフォンやパソコンで、だれもが無料で使えるものです。登録もいらず、匿名で相談できます。名前を出さなくてもいいのです。
なぜ柏市はこの仕組みを導入したのでしょうか。背景には、現代社会の課題があります。孤独や孤立に悩む人が増えています。若者の自殺、ヤングケアラー(家族の介護や世話をになう子ども)の問題も深刻です。しかし従来の相談窓口は、平日の昼間しか開いていないことが多く、電話や対面では相談しにくいと感じる人もいます。そこで柏市は「AIなら気軽に話せるのでは」と考え、このチャットを導入しました。
技術を提供したのは株式会社ZIAIという会社です。この会社は心理の専門家と協力して、「傾聴(けいちょう)AI」を開発しました。傾聴とは、相手の話をよく聞いて理解し、気持ちに寄りそうことです。このAIは解決策を押しつけません。代わりに「そうなんですね」「それは大変でしたね」と共感をしめし、必要に応じて質問を返します。人間のカウンセラーに近い会話をAIが行うのです。
実際の運用では、若者の利用が特に目立っています。実証実験の結果、利用者の約三分の一が十代から二十代でした。相談内容は「学校での人間関係」「いじめ」「恋愛や性の悩み」「心の不調」などさまざまなものが寄せられました。終了後のアンケートでは、満足度が八二・五%と高い数値を記録しました。「AIだから安心して話せた」「気持ちが軽くなった」という声も多くありました。
さらに、AIで話したことをきっかけに、実際にスクールカウンセラーや教員へ相談した例もあります。つまり、AIは相談の「第一歩」として機能しているのです。また、柏市は相談内容を匿名化して集計し、政策づくりにも活かしています。たとえば「夜の時間帯に利用が多い」「特定の世代で悩みが集中している」といった傾向を把握し、孤立対策に役立てています。
一方で、課題もあります。今の仕組みでは、AIが聞いてくれるだけで、人や支援機関につながる流れはありません。悩みの解決には、行政の専門窓口や支援団体の力が必要です。AIをどうやって人間の支援につなぐのか。緊急性の高い相談にどう対応するのか。これが今後の大きな課題です。
他の都市も動き始めています。東京都八王子市は「はちココ」というAIチャットを実証導入し、必要に応じて福祉窓口の情報を提示する機能を加えました。奈良市では子育て分野に特化し、AIと人間の相談員を切り替えられるハイブリッド型のサービスを始めました。岡崎市のように外国籍市民が多いまちでは、多言語対応型のAI相談も検討に値するでしょう。
柏市の取り組みは、行政が「住民の声を拾う新しい手段」を手にしたことを示しています。AIは決して人に代わる存在ではありません。しかし、相談の入口を広げ、悩みを抱える人に「話していいんだ」と思わせる大切な役割を果たします。
今後はAIと人間の支援をどう組み合わせるかが鍵になります。
岡崎市も、教育・福祉・多文化共生の分野を横断して活用できるAI相談を検討する価値があります。AIはコスト削減の道具ではなく、市民の声を集めるセンサーとして機能します。その声をもとに、より良い政策につなげていく。これこそが、これからの自治体に求められる姿ではないでしょうか。
コメント